信州、安曇野、穂高、ゲストハウス・ノーサイド、スローライフ、スローフード、食の歳時記 5 月


* 5月 残雪とれんげ畑


 安曇野は四季を通じて美しいが、5月の風景はまた格別である。5月の連休が終わった頃から田植えが始められるのだが、残雪を戴いた山々と、薄桃色のれんげ畑や田植えが済んだばかりの青々とした大地が描くまばゆいコントラストは、生き生きと光り輝く活気が感じられる。

 穂高町出身で、アメリカ・ヨーロッパへも遊学したことのある彫刻家荻原碌山も、5月半ばの安曇野の風景を「世界一」と称している。世界にも美しい風景は多々あると思うのだが、安曇野は、人を圧倒し、寄せ付けないような厳しい美しさではなく、起伏に富んだ壮大な山々が、人間の営みを温かく見守っているような、穏やかで心やすらぐ調和の美を持つ景色であると思う。(写真はれんげ畑)


5月の中旬から下旬にかけては本当に爽やかで、待ちわびたように一斉に開花する清楚なりんごの花や、あらゆる木々の新緑から、みずみずしい薫りが風に乗ってくるようで、まさに「風薫る5月」だ。私達も庭の手入れをしたり、わずかながらハーブを栽培したりと、外仕事の多い季節になる。

 最近は、日本でも様々なハーブが栽培され、手にはいるようになったが、私達は料理に西洋系ハーブはあまり沢山使わない。なぜなら、気候が穏やかで湿度も高く、また、野菜、肉、魚、どの素材の味も繊細な日本では、西洋系のハーブは、風味や香りがやや強すぎるような気がするからだ。

 素材が比較的大味で、気候が乾燥したヨーロッパのような地域では、西洋ハーブは、料理をとても引き立てると思うが、日本で同じように多用するのは、何となく風土に合わないような気がする。よく「外国産の香水は香りがきつい」という話をきくが、これも同じことで、湿度が高く、食生活も異なる日本では、外国産の香水がすべての人に合うとは限らないだろう。
だから私達は、アクセントとして西洋ハーブを使うが、むしろショウガ、山椒、紫蘇といった日本古来のハーブの味を大切にしている。

 

この時期になると、M青果の店頭も一層活気づき、甘みと歯ごたえがたまらないグリーンアスパラガスや、山うど、こごみ、タラの芽、コシアブラといった山菜も最盛期を迎える。あるとき年若い女性のゲストが「山うどを初めて食べたけれど美味しかった」といってくれたことがあった。
 都会人にとっては、山菜を食べる機会は本当に少なく、もし六本木あたりに山菜料理屋などがあったとしても、とても気軽に入れるお店ではないし、鮮度も落ちていて、本来のおいしさを味わえないだろう。(取り立てを食べるなら肉や魚より野菜である)だからせっかく旅に出たら、よほど特殊なものでないかぎり(私達も蜂の子を食べるのは、ややつらいものがある)、食わず嫌いは忘れた方がいいかもしれない。

 また、長野県内も高速道路が整備され、宅急便の普及など、物流がとても良くなったので、日本海その他の地域から、豊富な種類の魚も手にはいるようになった。だから、野菜や山菜も食べ方のバリエーションが広がり、とても嬉しい。
 私達は土地の食材を大切にしているが、何が何でもそれだけで料理しようとは思っておらず、鰹や鮪、海老などを使うこともある。しかし、それはあくまで土地の食材の味を引き立てるためであり、主役はあくまで地物の素材だ。

 安曇野は日本のほぼ真ん中に位置しているので(日本のへそに関しては諸説紛々なのでここでは触れないことにしよう)食文化も丁度東西の合流地点のようである。  たとえば魚にしても、関東ではあまり馴染みのない「鱧(ハモ)」や「甘鯛」などが店頭に並び、野菜では、葱なども、白葱、青葱、青白半分の長さの葱が季節に応じて現れるし、京芋、水菜、といった関西特有の品もみることができる。これは、この地域に移住している人達の需要によるものかもしれないが、なかなか面白い土地柄である。
  ちなみに某社のカップ麺は関西と関東とでスープの味を変えているという話がある。信州では何味なのか、一度比べてみたいと思っている。





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